タイズプレゼンテーション

夢中の深層~インタビュアー川邊健太郎~

第七回 大木ハカセさん アウトドアカレーをめぐる終わりなき冒険

この世に、まずいカレーなんてない!

アウトドアマンを支える活動をおこなう傍ら、アウトドアカレーに執拗にこだわる男の並々ならぬ思いとは…

第7回ゲスト、アウトドアプロモーター・大木ハカセさんの『夢中の深層』に、インタビュアー川邊健太郎が迫ります。

大木ハカセさんプロフィール

1975年、千葉県船橋市出身。
アウトドアプロモーター
幼少期よりアウトドアに多大な影響を受けて育つ。
バックパッカーとして世界を旅したのち、音楽プロモーターとして活動。
2012年からは、冒険家のマネージメントやサポート活動を始める。
また、アウトドアを普及、発展させたいという思いから、日本初のアウトドアプロモーターとして、イベントの運営なども行うほか、アウトドアで培った経験をもとに、災害現場での支援活動なども精力的に行っている。

アウトドアを職業にする

 

川邊:今日はアウトドアカレー作りに夢中になっている、アウトドアプロモーターの大木ハカセさんにお越しいただきました。よろしくお願いします。

ハカセ:よろしくお願いします。

川邊:まず、ご職業のアウトドアプロモーターというのは、どういうものなんですか?

ハカセ:そもそもアウトドアプロモーターという職業はなかったんです。アウトドアの仕事をする前は、音楽業界のプロモーターとして働いていたんです。アウトドアって意外とみんな、知っているようで知らなくて。どんな競技でもジャンルでも、例えば一流のミュージシャンやプロ野球選手は儲かるイメージがありますよね。でも冒険家とか探検家って食えない人が多い気がするじゃないですか。

川邊:確かに、アウトドアのプロは食えないっていうイメージが強いです。おまけに死んじゃう可能性もある。

ハカセ:アウトドアをぜんぶ、音楽業界に当てはめてみたんですよ。たとえば、アウトドアブランドっていうのはギターのブランドだとか、アウトドア雑誌も音楽雑誌と変わらない。キャンプ場や山っていうのは、ライブハウスみたいなもんです。それで、アーティストがいて、プロダクションもあるにはあるんですけど。プロモーターっていう職業がないんですよ。だから、一般の人を引きずり込むことをこれから誰かがしないと、アウトドア業界が衰退してしまうんじゃないかと考えて、アウトドアプロモーターを始めました。

川邊:じゃあ逆に言うと、音楽のプロモーターっていうのは、ファンを増やすっていうような仕事なんですね。

ハカセ:たとえばギターが弾けなくても歌が下手でも音楽ファンにはなるじゃないですか。だけどアウトドアファンって、「山のスキルがないと本物じゃないぜ」と言う人もいるんです。

川邊:なるほど。

ハカセ:それっておかしいことなんですよ。山に一度も登ったことない登山ファンがいてもいいと思うんです。そういう人達がどんどん増えてこないと、お金が落ちない。落ちなければ遠征費も集まらなくなっちゃうし、アウトドア人口もどんどん減っていく。

川邊:それで音楽のプロモーター業を辞めて、「アウトドアプロモーターになろう!」って始めたんですか?

ハカセ:もともと、自分たちで音楽事務所をかまえているときに、事業部として冒険家のオフィスを作ったんです。

川邊:それが発展する形で始めたんですか。

ハカセ:そうですね。あるとき、仲間の冒険家の北極点への遠征をサポートすることになったんですけど、自分は別の仕事でお給料が出ているので、たぶん彼がそこで死んだとしても食って行ける。でも、それってフェアじゃないですよね。死んでしまったら自分も死んでしまうというのでないと、チームとしておかしい。「じゃあ、この仕事だけにするか」と思ってアウトドアプロモーターだけに絞りました。

川邊:それは、どれくらい前なんですか?

ハカセ:5、6年前ですね。

川邊:最初は、北極点に行った彼のサポートというか、プロモートから入ったんですね。

ハカセ:プロモートとは、違うんですけど。毎日、衛星画像を見ながら気象条件を衛星電話で教えたりしていました。いわゆる事務局という仕事です。毎日記録をつけて、発信して、協賛をつけて。決して人数の多い団体じゃないので、歩く以外のことはぜんぶサポートしました。

川邊:協賛金とかいろんな収益金をマネジメントして、それで食べていくと。

ハカセ:ぜんぶ、遠征に消えちゃうんですけどね。

川邊:それじゃもう、食べていけないじゃないですか。

ハカセ:そこで今度は、そこに生まれる付加価値というのをどう付けるかなんです。北極点への遠征中に出張事務局というのをやったことがあって。お客さんをライブハウスに集めて、ブリザードの中で停滞している冒険家と衛星電話で繋ぐということをやったんです。「こっちは死にそうです」みたいな。それはお客さんがいっぱい来ました。そういう付加価値というか、そこでの面白さを伝える活動をしました。

川邊:見に来る人はファンの方ですか?

ハカセ:ファンとか、興味があるっていう人に連れてこられた人です。

川邊:安全なところでアウトドアを楽しむっていう。

ハカセ:そういう方が増えるといいなって思います。

川邊:今は具体的にどういう冒険家の支援をしたり、枠組みを作ったりなさってるんですか?

ハカセ:北極冒険家の荻田泰永(おぎたやすのり)とは深く関わっています。彼は一緒に事務所を立ち上げた人間なので。あとは、名前も知らない探検家とか大学の探検部とかが事務所に来るんですよ。事務所に行くと、入り口の前に座ってたりして。「どうしたの?」って聞くと、「次、こういう遠征に行こうと思うんですけど、どうですかね?」とか言われたりします。「どうですかね?」って聞かれてもなぁ~って。

川邊:普通、そうなりますよね。

ハカセ:冒険、探検でそういうオフィスがあまりないので、「とりあえずあそこ行ってみるか」という考えだと思います。そういう子たちが集まってくると面白くなるんで、ウェルカムなんですけど。

川邊:そういう相談の中で、チャレンジとしてもいいなとか、付加価値が付けられそうだなっていう人を選んで、プロモートしていくんですか?

ハカセ:そうですね。自分が「こいつ面白いな」って思った人には、なんでもやります。

川邊:資料を見ると、『僕らの冒険 リヤカー東海道五十三次』というプロジェクトがありますけど、何がきっかけで生まれたんですか?

ハカセ:「小学6年生の夏休みって特別だな」という思いから、冒険家の荻田泰永(おぎたやすのり)と小学6年生を連れて旅をするプロジェクトをやっていたんです。自分の荷物をザックに詰めて、160kmの距離をキャンプ場を転々としながら旅をするっていうのを、5年くらいやってきました。そこで今度は、中学生と何かできないかなって考えていたときに、道端でリヤカーを引いてるおじさんに会って、引かせてくれって頼んで、夜中にちょっと引いてみたんです。そのときに「これかな」って思ったんです。自分のザックを背負って、「頑張るぞ、頑張るぞ」っていうのは、小学生の成功体験としてはアリなんですけど、同じことをしても面白くないので。四隅に人がついて、みんなの荷物を積んだリヤカーを一緒に引くと、誰が手を抜いてるか分かるんです。

川邊:一人が引く訳じゃないんですね。

ハカセ:みんなで150kgくらいのリヤカーを引くんですけど、未熟なチームがリヤカーを引くと、力が入ってない人がいるのがわかったときに「あいつ手を抜いてるな」となるんです。それが、チームが良くなってくると、「あいつ今、疲れてるのかな」とお互いに気を遣い始めるんです。東京の日本橋を出て、2週間ちょっとで京都の三条大橋まで東海道を行こうかなと。その日どこまで行けるかわからないので、宿もいっさい手配せずに、基本野宿で。公園だとか川だとかにテント張って。あとはコンビニに野宿交渉をみんなでするんですね。「私、ちょっとリヤカーで旅をしてるんですけど、野宿させてもらえませんか?」って。じゃんけんで負けたやつが交渉したりして。旅の方針を毎日中学生とミーティングして決めるんですよ。あらかじめ、決められたルールがあると考えなくなるんで。

川邊:ルールがあると「従っていればいいや」ってなっちゃいますよね。

ハカセ:中学生には成功体験なんかいらないと僕は思っていて。大人になっても「これをやったらこれになれるんですか?」っていう、答えがないとやれない子っているじゃないですか。大人になると、成功が保証されてないことって多いと思うんです。

川邊:答えがないことも多いですからね。

ハカセ:それを成功させるために何が大事かを考えてするじゃないですか。だからあえて、ギリギリ成功するかわからない日程でルートを組んでるんです。親御さんにも「成功する可能性は50%で、それを100に近づけるために、僕らが話し合って、何をしていくのかっていうことを考える旅です」と伝えています。

川邊:ひと夏に一組でやるんですか?

ハカセ:そうです。子どもは4、5人です。全国から募集します。僕以外に大人は一人もいません。他にサポートの人が入っちゃうと、僕も安心しちゃうので。彼らも不安で、僕も不安で600km歩きます。

川邊:このプロジェクトを通して子どもは成長するでしょうね。

ハカセ:家に帰って一ヶ月か二ヶ月も経てば、また戻るんでしょうけどね。何年か経って大人になって、子どもができたらちょっと思い出して、そこで成果が出たらいいなと思います。

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