ハカセ:カレーって美味しくないカレーってあったことなくないですか?
川邊:ないですね。レトルトカレーでも美味しいですからね。
ハカセ:カレーって、“美味しいカレー”と“毎日食べたくなるカレー”と“特別な日に食べたいカレー”の3種類しかないんですよ。
川邊:どう違うんですか?
ハカセ:たとえば、自分の母親とか奥さんが作るカレーって、「このカレー、超美味しいんだよ」っていうよりは、“毎日食べたくなるカレー”。
川邊:まあ、そうですよね。
ハカセ:あと、「このカレーすごく美味いけど、毎日は食いたくない」っていう“特別なカレー”もあるんですよ。それに当てはまらないのは、大体“美味しいカレー”です。
川邊:“美味しいカレー”は、2日にいっぺんくらいでいいかなと。
ハカセ:そうですね。
川邊:今年の大会は、最近行われたばっかりなんですよね?
ハカセ:ディフェンディングチャンピオンという立場での参加。これが、僕を惑わせるんです。「ルーなんて使っちゃいけない」なんて考えたりしてしまって。使ってもいいんですけどね。どうしても変化球を投げたくなるんです。
川邊:どこでやったんですか?
ハカセ:今年は静岡のキャンプ場でやりました。『秋の森』みたいな感じをカレーで表現してやるみたいな。
川邊:少し変わった方向のカレーになったわけですね。
ハカセ:みんな、何肉のカレーとか。「カレーに肉を入れなきゃいけないっていう概念がおかしい」という考えになりました。野菜も入ってなくていいと。今回はピーナッツとアーモンドとピーカンナッツとクルミをすりつぶして、木の実を食わしてやると考えました。それが、大変不評だったんです。
川邊:事前に作ってみて味見はしたんですか?
ハカセ:自分の頭の中で一度、カレーを作るんです。「こりゃ美味いな」と想像する。その分量とか細かい調整をするため、試作品を作って家族に食わせるんです。娘は一口食べてやめ、息子は気を使いながらなんとか一杯食べて。ちなみに、カミさんは食べませんでした「なんだ、わかってないな」と思いましたが。
川邊:そこでちょっと、一般に人が受け付けない感じが入っちゃったんですね。
ハカセ:「こんなに美味しいものを食べないのか」と思って鍋一杯、僕一人でぜんぶ食べましたよ。
川邊:「周りが間違っている」と。
ハカセ:「カレーを語れないな、お前たちは」なんて。その時点で間違っていたんです。
川邊:そこが立ち戻れる最初のチャンスだったかもしれませんね。
ハカセ:審査するのは一般の方なんで。
川邊:まさに自宅に審査員がいたのに。
ハカセ:なんでそこで改めなかったんだろうっていう。
川邊:カレーじゃなくて、審査員が悪いってなっちゃったんですね。
ハカセ:本番では、ちょっと変えてみようかなと。ナッツの量をさらに倍にしたんです。「そうか、あいつらもっとナッツが欲しかったんだ」と。
川邊:また間違った方に。
ハカセ:三塁方向に大疾走。それで大惨敗ですね。出た人たちの中で、一番点が低いという。最初に二位が発表されて、それを聞いたときに「一位は今年も俺かな」なんて思ってたんですよ。嬉しくてニヤニヤしてるのを見られないように下向いてたんですけど、呼ばれたのは別の方でした。もう僕は下向いたまんまですよ。終わって点数見たら、一位どころか最下位。そのあと誰とも話さずに、十五分後くらいに会場を出ました。
川邊:逃げるように。もう主催者にも挨拶せずに。
ハカセ:そのときは悔しさがなかったんですけど、じわじわじわじわ帰りの車で涙が出そうになっちゃって。もうそれから家に帰って寝ようと思っても寝られないんです。「なんで負けた」というより、「あれ?俺は美味しくないカレーを作れる唯一の男なのか?」くらいに悩んでしまって。その日、ニンジンとかジャガイモを買って帰ったのも覚えてないくらいの感じです。
川邊:うわの空で。
ハカセ:で、作ってみたら「あれ、美味いぞ?」って。「じゃあ、俺は違うものを出したのか?どうなんだ?」っていう感じで。浅い眠りの中で4、5回うなされるんですよ。
川邊:「俺のカレーは美味しくないのか?」「なぜだ?」と。
ハカセ:カレーができあがる瞬間にカレーがこぼれる夢とか、いろんな夢を見るんですけど。
川邊:カレーにうなされてるんですね。