タイズプレゼンテーション

夢中の深層~インタビュアー川邊健太郎~

第六回 樋口卓治さん 「今、観たい」と思わせる番組を1分でもつくりたい

世の中のあらゆることを好奇心で楽しいに変換する

テレビっ子だった少年は、やがて作り手となり、いまやテレビを支える立場となった。
そんな彼がいま、テレビに思うこととは…

第6回ゲスト、放送作家の樋口卓治さんの『夢中の深層』にインタビュアー川邊健太郎が迫ります。

樋口卓治さんプロフィール

1964年、北海道札幌市出身。
放送作家、小説家。
これまで担当した番組は500本を超え、『さんまのからくりTV』(TBS)を皮切りに、『学校へ行こう!』や『ガチンコ!』(TBS)、『ココリコミラクルタイプ』(フジテレビ)など、数々のヒット番組を手がける。現在も『Qさま!!』(テレビ朝日)、『ぴったんこカン・カン』、『中居正広の金曜日のスマイルたちへ』(TBS)をはじめ20本近い番組を担当。
2012年、小説家としても活動を開始。これまでに4作品を発表。
デビュー作『ボクの妻と結婚してください。』(講談社)は舞台化、ドラマ化を経て、2016年11月5日に映画が公開される。

きっかけは「明石家さんまを笑かそう」

 

川邊:今日は放送作家であり小説家の樋口卓治さんにお話をお伺いします。よろしくお願いします。

樋口:よろしくお願いします。

川邊:今、テレビのレギュラーって何本くらいなんですか?

樋口:あまり細かく数えてないですけど、放送作家のキャリアでいちばん多いです。20本近くはあるかもしれないですね。

川邊:今まで手がけられた番組の数ってどのくらいなんですか?

樋口:放送作家になってもう27年なんですけど、500~600本くらいになっていると思います。

川邊:すごいですよね。『夢中の深層』は常に極端な方がゲストとしていらっしゃるんですけど、樋口さんもそういう意味では極端ですね。

樋口:でも同世代の放送作家も、業界では「ラストオーダーが終わっても帰らないやつら」って言われるくらいテレビの現場に居残ってます。その人たちはみんなそれくらいの数、番組をやってます。下手したらこれまで1000本くらい番組をやってきた人もいるかもしれません。

川邊:今の20本はどうやってこなすんですか?

樋口:放送作家の仕事以外だと飲食店でアルバイトをしていたことがあるんですけど、飲食店ってどれだけランチタイムで忙しくても、オーダーが通ったら作れちゃうじゃないですか。オムライスを注文されてハンバーグ作る人はいないですよね。それと一緒で、オーダーがきたらわかるんですよ。

川邊:いろんな番組の会議に出たり、台本を書いたりをオーダー通りにこなしていくわけですね。

樋口:そうですね。ただそれだけじゃなくて、今の放送作家は昔と比べて仕事の領域が増えてます。ディレクターの相談相手になったり、プレビューといって、オンエア前の番組を観て、「ここ余計じゃないか」とか「もっと足した方が良いんじゃないか」みたいなことを客観的にアドバイスするといった仕事も増えているので多岐にわたって関わっています。

川邊:そうして20本の番組に関わり続けているわけですが、できあがった番組はオンエアで観ているもんなんですか?

樋口:観ます。下手したら3回くらい同じ番組を観ることもあります。残り少ない人生で、3回も観たくないなと思いながら観てますけど。

川邊:土日も関係なく仕事はするんですか?

樋口:テレビ業界自体、土日に仕事することがなくなってきてるんで、日曜はそこそこ休めます。その時間は小説に充てたりしてます。

川邊:放送作家っていうのは、どうやってなるものなんですか?

樋口:よくいわれるのは、放送作家って「放送作家です」って言っちゃえばなれます。免許事業でもないし、特殊な学校行って特殊な技能がいるわけでもないんで名乗れちゃうんですよ。やっぱりなることより、居続けるのが難しい仕事なのかもしれないです。

川邊:なるほど。

樋口:だからたまたま良い番組について長く続けば、長く放送作家をやれるし、たまたま出会ったディレクターやプロデューサーとウマが合えば同じユニットでやるしっていう、いろんな偶然が転がって年数が増えていくっていう感じです。

川邊:かいつまんで言うと、樋口さんはどういう経緯でこんなにたくさんの番組を抱える放送作家になったんですか?

樋口:番組のためにいろんな情報を集めるリサーチャーという仕事が始まりです。インターネットがない時代なので、リサーチャーは図書館に行って、雑誌をコピーして、自分でまとめて会議に提出したりするんです。たとえば、よくテレビに出てくる「東京ドームの何個分」を調べるために図書館に行っていろんな物の大きさを東京ドームの面積で割ったりとか。会議に資料を提出するときに、ちょっとした工夫をする人と、コピーしたものをそのまま出す人で差が出てきて。ちょっとまとめて出したり、「自分的にはオススメ、星3つ」とかって資料に書くと、なんか会話が弾むじゃないですか。そこで気に入られたりとか、会議の場を和ませたり、座を持たせたり関係性ができました。

川邊:気に入られるというのは、誰にですか?

樋口:同じ身分のADさんとウマが合うんです。そうしているうちに、いざそのADさんが番組をやるとなると、「手伝ってくれませんか?」ってなるんですよ。

川邊:それで一緒に番組を作るわけですね。

樋口:その番組がけちょんけちょんに言われたりするときもあれば、たまたま「面白いね」って言われることもあるし。「このエッセンスは次に使えるね」とか。いろんな破片を拾ってもらって、「今度は放送作家として入りませんか?」とか、「サブとして入りませんか?」とか「チーフとしてやってもらえませんか?」といった感じでどんどんポジションが変わっていくんです。

川邊:そういう下積みをした上で、最初に「放送作家として番組に入らない?」と言われた思い出の番組はなんですか?

樋口:いろんな紆余曲折を経ながら、TBSの「さんまのSUPERからくりTV」に入りました。そのときはTBSに明石家さんまがやってくるっていうのは、すごいことだったんです。いわゆる『ひょうきん族』とかフジテレビ全盛の時代で、「コントと言えばフジテレビ」みたいになっていて。それで明石家さんまがTBSにやってきたときに、「明石家さんまをみんなで笑かそう」ってスタッフが一丸となるんです。笑かすために、素人の面白いVTRを撮ってきたりとか、屋根が抜けたりするような海外のおもしろ動画を買ってきたりとか。それでさんまさんにどんどんぶつけてって。それでそのときに僕が『からくりビデオレター』っていうのをたまたま出したんです。それが「面白いね」ってヒットして。

川邊:いくつか思い出の番組のことを聞きたいんですけど。いちばん楽しんでできた番組っていうのは?

樋口:辛いも含めて楽しいってことになると思うんですけど。さきほど挙げた『からくりビデオレター』一つとっても、まずは20個くらいのアンケートを作るんですね。「子どもに対して腹が立ったこと」、「最近思っていること」とか、それをADが田舎の山奥のおじいちゃんとかおばあちゃんとか、お父さんのとこに一升瓶を持って行くんです。それで酒を飲みながらアンケートの紙が真っ黒になるまで埋めて返ってくるわけです。それで東京戻ってきたときに僕らが読んで、これをパズルしながら10個くらいネタを作るんです。それを今度ディレクターに託して、その家族に「こういうことを思ってます?」って言うと、「こういうこと言いたかったんだよ」ってなって、じゃあ「いざ撮るぞ」って。

川邊:撮る前のリサーチですね。

樋口:毎週アンケートを見ながら、7~8時間くらいかけて1軒あたり10ネタ、合計5軒くらいなので50個くらいネタを作るんです。それで、撮りに行くときはディレクターと、「このおじいちゃんは田んぼに立たせた方がいい」とか「飼ってる犬を連れていたら暴れるんじゃないか」とかいろいろ決めて、そういうのはすごく楽しかったです。

川邊:一個のコーナーで言うと、正味10分くらいですか?

樋口:10分あるかないかくらいですね。

川邊:その10分間のためにそれだけ毎週丹精込めて作って。でも楽しかったですか?

樋口:毎週8時間くらい拘束されていたので相当きつかったです。

川邊:他の番組でいうと?

樋口:素人で言うと『学校へ行こう!』とかV6のああいうのは、やってて楽しかったです。僕が担当してたのは、『B-RAP HIGH SCHOOL』って言って、ちっともラップじゃないんですけど、素人の若者がなにかのメッセージを歌うんですけど、その歌を素人と一緒に作ったりして。そういうのは楽しかったです。それがスタッフ内で「面白い」ってなって。そこから「こういうのが得意な人なんだな」って思われるようになってくんです。

川邊:得意な領域がハッキリしてくるんですね。

樋口:僕は素人のズッコケたり、泣いたり笑ったりするのが特に好きだったんです。それが企画を通してキャラとして確立されてくるんです。

川邊:「素人をやるんだったら樋口さんに頼もう」と。

樋口:「他にどんな企画できる?」っていう感じになっていく。

川邊:面白いですね。放送作家のなり方なんて知らないですからね。

樋口:高須光聖さんはダウンタウンのブレーンとしてだし、鈴木おさむはSMAPとか、内村さん(内村光良=ウッチャンナンチャン)のいとこで、あんちゃん(内村宏幸氏)って人がいるんですけど、その人は特にコントがうまかったりとか。

川邊:じゃあ、みなさん得意領域で専門性があるんですね。

樋口:そこから、柔軟にいろんな番組を担当する放送作家がほとんどです。

バラエティの教科書は少年時代にときめいたテレビ

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