川邊:放送作家の方って、やたら会議が多いイメージがあります。「テレビ局行って、これから会議です」みたいなイメージなんですけど。
樋口:放送作家は作家というか会議屋ですよね。「放送の作家」っていう、たまたま放送のために台本を書くポジションにいるっていうだけで、会議でどれだけみんなで喋るかっていうのが僕らの仕事でいちばんコアなところです。
川邊:それはお互いにお互いが思っているってことをぶつけ合うんですか?それともファシリテーターがいて回していくんですか?
樋口:最終的には総合演出って物事を決める人がいるんですよ。その人に向かって意見を言って、その中から「そうだね」って言われるのを待つんです。
川邊:「会議でウケる」とか、そういうのはすべて番組につながっているんですか?
樋口:すべてオンエアまで一直線で繋がってるんですよ。
川邊:それを変換する装置が会議なんですね。会議っていうのは、毎週やっているんですか?
樋口:毎週ですね。1つの番組につき2時間くらいです。
川邊:1つの番組の1回分が2時間。
樋口:そうですね。いろんな問題点もありつつ、中身のこともありつつ、今週の収録のこともありつつ。今週のオンエアのこともやりつつ。っていうのを2時間でやります。放送作家はいろんな番組をかけ持ちしてるんで。この2時間で完結しないとまた時間を作らなくちゃいけないんですよ。
川邊:そのときにその、当然原始的なアイデアは持っていってそれをぶつけていって?
樋口:セッションのようにして、そこからポコっと決まります。
川邊:それは個人的なアイデアが通ることが快感なのか、むしろいろいろ足されて創発的になっていくのが気持ちいいのか、どっちなんですか?
樋口:僕は後者ですね。別に自分のアイデアが通らなくてもいいし。
川邊:やっぱりアイデアをかけ合わせていくと面白くなりますか?
樋口:なりますよ。あといろんな事情があったり、いろんなことでいい妥協点を見つけたりする。で、いい妥協点見つけるためにはやっぱり、経験則はいるだろうし。
川邊:30年近くやられていると、会議のありようっていうのは変わってきていますか?
樋口:切なさも含めてですけど、無駄話が少なくなりました。
川邊:どうしてですか?
樋口:経費にも関わってくると思うんですけど、やっぱりダラダラと長くやるよりはコンパクトに、短く。そうすると、浮くものもあるじゃないですか。いわゆるタクシー代が浮いたりだとか。そういうことを含めて、どんどんミニマムにはなってきています。
川邊:無駄話の効用は、けっこうありましたか?
樋口:ありましたね。「今週、お前はなにを失敗したんだ」っていうところから聞かれて、「今週はこういうことがありました」とか「かみさんと姑が大変です」とか、いろんなことから「さあやろうか」ってなったんだけど、いまはやっぱり、いきなり視聴率のグラフが置かれてて、先週どこで上がってるのかとか見て。今週の収録に向けてディレクターが発表して。あーだこーだ言って、次いっちゃうっていうのが多いです。
川邊:余裕がなくなってきているっていう感じなんですか?
樋口:そうですね。世の中全体の流れに近いと思いますけどね。やっぱりコンビニでも、レジで前の人が「ピッ」ってやるのが遅いとイラっとしたりするけど、昔は「ごめんください」って言ったら、商店のオバちゃんがそうめんかなんか食べてて、出てくるみたいな、そういう余裕が今の会議にはないです。
川邊:テクニックに走ることであるとか、経費の制約がどんどん出てきていることであるとか、そういう現状に対して問題意識とか、逆に「こういう風にした方が良い」とか思っていることはあるんですか?
樋口:やっぱり僕らみたいなおじさんがいる理由としては、昔のよさみたいなのを会議の中にうまく入れ込んであげることくらいかなって思います。要するに、ダラダラやっていた昔のようには戻れないから、このせめてドライな感じのところに、いわゆるコンビニの世知辛さに商店の人情みたいなのをちょっと入れるみたいな感じが、僕らの役目かもしれないです。