川邊:『アウトドアカレー対決』というイベントがあって、そこで死闘が繰り広げられているとお聞きしました。そのあたりの話をじっくり聞きたいんですけど、まず『アウトドアカレー対決』とはなんですか?
ハカセ:某出版社さんが企画されてるフェスの中で、もう7年やってる企画なんですけど。いろんなアウトドアマンが集まって、野外でカレーを作る対決なんです。制限時間2時間で、事前に仕込みをしてはいけません。だから、スパイスを調合してくのもダメですし、お肉をなにかに漬けていくというのもNG。やっていいのは、火を起こしておくだけです。
川邊:なるほど。
ハカセ:食材はぜんぶで8000円以内。ご飯は運営側が用意する。で、フェスの参加者60人くらいと審査員が何人かいて、その人たちがアウトドア度とか、美味しい度とか、これならできるとか、いろんな基準で審査します。
川邊:去年が初出場ですか?
ハカセ:初出場です。僕は、いろんなアウトドアマンの作るカレーに異議があたったんですよ。
川邊:どんな問題意識が。
ハカセ:アウトドアカレーなのに、「ガラムマサラ入れよう」とか「コリアンダーが良い」とか、そういう粉いっぱい入れてとか、特殊なスパイスを使う人が多かったんです。いろんな粉を使った難しいレシピっていうのは、キャンプに行ったときに家族で作らないですよね。
川邊:普通はそうですよね。
ハカセ:『カレーを作りに行こうキャンプ』ならいいんですけど。
川邊:アウトドアカレー対決という意味でいうと違うんですね。
ハカセ:普及する側が、誰でも作れるものっていうのを教えないと面白くないんです。だから去年は、2日目のキャンプで残っている食材だけを使ってできる美味しいカレーっていうコンセプトで作りました。お肉はみんなすぐ焼いて食べちゃうんですよ。大体、保存されているベーコンと、人気薄な豚バラのブロックなど「誰が買ったんだ」っていうもの。あと残っているコーラとか、そういったものだけで作れるカレーです。
川邊:野菜はなにが余りがちなんですか?
ハカセ:野菜はまあ、普通にニンジンとかジャガイモ、玉ねぎとか。僕、カレーで絶対に欠かさない野菜ってあるんですよ。これがないとカレーは作らないっていうのがあって。なんだと思います?
川邊:え?なんだろう…
ハカセ:しょうがとセロリなんです。普通のレトルトでも、しょうがとセロリを少しすって入れるとまったく違う本格カレーになります。これは絶対にカレー作るときには絶対に必要です。
川邊:それって普通のカレー屋とか、手のこんだカレーにもしょうがとセロリが入っているんですか?
ハカセ:入ってます。ブーケガルニ(香草の一種)とか。僕が去年作ったカレーは、野菜をぜんぶすりおろすんです。そうすると煮込む時間が少なくても旨みがぜんぶ入るので、そこにカレー粉を入れて炒めたら、カレーのルーができます。鍋の方は豚バラとベーコンを四角く切ったものを、コーラでしばらく煮ておくんです。炭酸で肉が柔らかくなる。しかもコーラって煮詰めると醤油、酒、みりんを合わせたような味がするんです。そこに今度はジャムを入れて。
川邊:どんなジャムですか?
ハカセ:どんなジャムでも大丈夫です。チャツネの代わりです。そして、味に深みを出すためにミルクココアを入れます。よく「インスタントコーヒーを入れるといい」っていうんですけど、コーヒーはちょっと煎ってから入れないと苦味が強くて、香ばしさがなくなっちゃうんですよ。
川邊:本当に詳しいですね。
ハカセ:ちなみに、子どもは自分の好きな食べ物が隠し味として入っていて違う味になっていると、興味を持っていっぱい食べるんですよ。「早く食べなさい」なんて言われてる子も、そういうカレーならいっぱい食べるんです。そこにさっき作ったルーを入れて、最後に焼肉のたれを一瓶入れると、とても美味しいカレーになります。焼肉のたれの中には、使うべき香辛料がほとんど入ってる。
川邊:いろんな味が重なっていますもんね。焼肉のたれ。
ハカセ:今の方法で作ると、一時間かからずにできあがるんです。あとはサイドメニューを一つ作る。サイドメニューはデザートを作ろうかなと思って、フライパンで牛乳ちょっと温めて、マシュマロ溶かしたんです。それで冷やすとフルーチェになるんです。
川邊:それも余り物で新しい違うものが作れる。
ハカセ:キャンプに「夜に焚き火で焼きたいから」って理由でマシュマロを買っていくと、半分もやらないんですよ。
川邊:丸ごと忘れたりするんですよね。
ハカセ:「これ買ったね」なんて。そういう余り物を朝にフルーチェにするんです。
川邊:審査員や一般の人たちの反応はどうでした?
ハカセ:断トツで良かったです。
川邊:チャンピオンになったときは嬉しかったんですか?それとも「最初から自分が優勝する」と思っていたんですか?
ハカセ:こんな嬉しいことがあるのかっていうくらい嬉しかったです。中学校のときにマラソン大会で賞状を貰ったのと同じくらい嬉しかったですね。