タイズプレゼンテーション

夢中の深層~インタビュアー川邊健太郎~

第一回 大木聖子さん 地震はいつ起きたっていい、という発想の転換のススメ

「下着だけ着けて出てきなさい」余震で亡くなった女の子と、自分を責めるおばあちゃんに教えられたこと

大木:地震学って地球の中しか見ないんですよ。地面の中の現象に興味があって、地面の上の建物とか人とかにはそんなに興味がないんですね。だから単純に地球の構造を調べて「何年で何%の確率で起こります」と評価するだけで終わっていたんですけど、それでは一般の人はよくわからないですよね。そこを伝える、コミュニケーションすることが大切だと思うんです。地震学は地面の方を向いていますが、きちんと人間の方を向くところまで広げて、新しい地震学を作っていきたいと思っています。

川邊:そうやって考えるようになったきっかけとかあったんですか?

大木:2004年の中越地震です。発生した2日後の新聞で、余震で亡くなった女の子の記事を読みました。地震が起きた時、お風呂に入ってた女の子に、おばあちゃんが「下着だけ着けて出てきなさい」って言うんです。ところが、その子は下着を着ている間に余震で亡くなってしまって、おばあさんは自分のことを責めていらっしゃるという記事だったんです。もし私がその場にいたら、少しは地震の知識があるので「すぐに余震が来るから、裸でいいから出てきなさい」と言えたと思います。でも、おばあさんはそれができなかった。これは地震学者がちゃんと知識を伝えてこなかったところに問題があると感じました。これからは知識を使って、人に伝えることもやっていこうって。

川邊:そこで防災とつながるわけですね。

地震学でわかっていることはすごく少ない 地震予知はできるかどうかわからないと認めることの大切さ

大木:ただ、地震学でわかっていることってすごく少ないんです。むしろ、わからないことの方が多い。たとえば津波が3メートルだと思っていても、6メートルになってしまう時もある。そういう不確実性をあらかじめ示すということも大切だと気がつきました。今でこそ学会が、地震の予知はできないということを認め始めましたが、40年ほど前は、そのうち予知できるようになると言っていました。もし、地震予知はできるかどうかわからないということを当時からきちんと伝えていれば、今とは違う結果になっていたかもしれない。2008年にアメリカから日本に帰ってきて、そういうことを伝えるっていう仕事に就いて、3年後に3.11が起きました。3年間で自分は何人に講演してきただろうと。その講演で私は「鉄筋コンクリートのビルの3階に避難すれば津波だったら大丈夫です」と言ってきました。地震学の世界では、ずっとそのように言われてきたんです。でもあの時、世界で初めて鉄筋コンクリートの3階建ての建物が津波で倒壊しました。

川邊:倒れましたよね、女川で。

大木:私だけでなく他の先生たちもなんですが、「3階建てに逃げてください」と自分が言ったことで、何人の命を奪ってしまったんだろうと。本当に申し訳ないと思いました。自分が手をかけて殺したような気分なんです。そこで、ただ伝えるだけではダメだと気が付きました。

2階がそのまま1階に落ちてくる いつでもどこでも必ず起こる地震にどう備えるか

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