川邊:自国に対する愛情が高いから、相手を攻撃しやすいと。
中野:「それが正義である」と思うわけですよね。これが相手国に向かう場合は戦争になると容易に想像できると思うんですけど、内部の裏切り者に向かうときにいじめどころでは済まない大変な攻撃になります。その人が全てを失って、「すみません」と泣いて謝るまで、炎上やバッシングは続きます。例えばベッキーさんが去年、非常に世間を騒がせましたけど、あれは不倫をしたからというよりは、「自分がルールを逸脱していても許される」という態度に、みんなが「社会を壊すやつだ」と反応したわけです。
川邊:日本の社会に愛着を感じている人が、社会の優等生っぽく見えたベッキーがそれを壊すようなことをしたので、それに対して攻撃をしたと。
中野:なんならメディアに出て、社会の代表みたいな顔をしていたのに、お前が裏切ったのかと。加えて、おそらく女性側の感情としては、自分の身の回りにも、自分の家庭を壊しに来るかもしれないという人たちがいる可能性があって、それと重ね合わせてなお攻撃したということではないかと推測できます。
川邊:オキシトシンが高いというのは、一見ポジティブでいいことのように思えるけども、作用によってはネガティブになると。
中野:まさにその生理的な部分を実験しているところなんですけど、脳内で作られるオキシトシンを鼻から投与して妬みを感じるシナリオを読んでもらうんです。例えば自分よりも可愛いかったり、格好良かったり、お金も稼いでいて、才能もあって…。みたいなことを提示して、「どう思いますか?」という実験をするんですよ。そのあとに、「その人が失脚しました」っていうのを見せるとドイツ語の学術用語で「黒い喜び」と日本語では訳される「シャーデンフロイデ」が生起する様子が見られます。脳の線条体(せんじょうたい)という報酬系の一部が復活するのがアクティブになるのがわかります。嫌なヤツが攻撃されて、攻撃がヒットしたとなると、その喜びも大きいということなんです。
「報酬系」
欲求が満たされたときに活性化し、喜びの感覚を与える神経。
川邊:オキシトシンは愛憎、両方とも振れがあると。
中野:みんなを守ろうとか、絆とか、みんながオキシトシンの高い仲良い社会であれば、週刊文春もよく売れるということになるんじゃないですかね。
川邊:なるほど。オキシトシンが高いというのは、みんながある程度所属している社会というのに愛着があるとき。そうすると週刊文春があんなに売れたのは、ある程度、社会への愛着が高い表れなんですね。
中野:その原因に考えられるのが、「3.11」ですね。大きな災害があるとその後、「絆」とか、「誰かのため」とか言いますよね。「誰かのためになにかしてあげなくちゃ」っていう気持ちが高まります。あれはオキシトシンが増えているっていうことなんです。
川邊:なるほど。すごい繋がりですね。3.11があって、社会の愛着が高まって。「そこにベッキーなにしてくれるんだ」と。3.11以降の日本社会に対して、なにをと。
中野:タイミングが悪かったですね。3.11以前と以降で、大きく変化した何かがあったとすればそれだと思います。みんなの絆意識が高まったこと、それによって閉塞感も同時に高まったということです。