川邊:脳の研究に夢中になって、自分の周囲から浮いた感覚というのをある程度理解できて、「これやってよかったな」という感じですか?人生を振り返って。
中野:よかったですね。35歳くらいまでは結構つらかったですけど。「なんで私生きているのかしら」と毎日毎日考えるような日々でしたが、だいぶそういうのは無くなりましたね。
川邊:同じようなことを感じているような人に、脳科学者になることを薦めますか?
中野:そうですね。脳の研究をしてみるとだいぶ変わるんじゃないでしょうか。
川邊:脳科学者になるまでじゃなくても、世の中の生きづらさを感じたりだとか、あるいは個性が強かったり、没個性すぎて同調圧力にさいなまれている人とか、いろんな人がいると思うんですけど。脳科学者の観点から、「こういう風に生きたら楽しいんじゃないですか」みたいな考えはありますか?
中野:私、最初は生きることは苦しみだと思ってましたけど、苦しいと思っていたことが、落ち着いてみると楽しかったんです。全部うまくいくと、だんだん人生が消化試合みたいになっちゃいます。逆に、人生が消化試合みたいになることほどつらいことはないです。苦しいうちが華だと思います。楽しいなと思えるのは、その問題が解決して半年くらいじゃないですか?次はやっぱり苦しみたくなるんですよ。
川邊:じゃあいま苦しみながら困難にチャレンジしている人は、それがいちばん幸せだと。
中野:「中野が勝手なことを言って」と思うかもしれないけど、それはなんらかの形で必ず解決します。あの苦しかった時代のことが懐かしいなと必ず感じるようになるでしょう。脳科学風のいい方をすると、「問題解決しなきゃ」というときに出ているドーパミン、これは私たちの活動の原動力となっていますけど、ドーパミンは、同じ状態が続くと出なくなっていくんですよ。
川邊:心地良さがなくなってしまう。
中野:ええ。本当に絶望感のある辛い気持ちのさなかでも、考えるという喜びがあるんですよ。今、収入が上がらなかったりする日本社会で言うと、なるべくドーパミンを出さないで生きていこうという人たちが多いのかもしれない。それは攻略法の一つではあるけど、その暮らしの中にも、日々の細かい問題解決があるでしょう。彼女とうまくいきませんとか、子どもが産みたいとかあると思うんですよね。そこを解決したくないと思っている人はいないんじゃないかな。本当は解決したくないと言っていても、どこかで解決したらいいなって願っていたりする。それを自分でやるのか、待ってみるのかはその人の自由だけれども。「自分でやってみた方が楽しいかもね」とは言える。
川邊:なんのチャレンジもない生活を送っていると、ドーパミンの分泌が減っていくので、どんな些細なことでもいいから、常に違うチャレンジをして、「解決した、ドバー!」みたいな毎日を送った方がいいと。
中野:苦しみを燃やして生きる。そうすると、遠くまで飛ぶことができます。
川邊:なるほど。これは脳的に極めて正しい状態にあると。最後に素晴らしい言葉を頂きました。今日の『夢中の深層』は、中野信子さんにお話を伺いました。ありがとうございました。
中野:ありがとうございました。