川邊:そもそも、なぜブラック企業アナリストになったんですか?
新田:学生時代に起業しまして、売上はあがったんですけど利益が残らず続かなかったんですね。それで「これじゃダメだ、ちょっと勉強が必要だ」ということで、いずれ起業する前提で、あえてブラックな会社に入って、自分を鍛えないといけないと痛感したのがきっかけですね。当時、ブラック企業ランキングみたいなのが出ていて、その中にはハードワークだけれども、その分稼げて2年くらいで普通の企業の3倍くらいの経験が積めるとか。そういう会社がいくつかあって、そういうところをあえて選んで受けて入ったんです。
川邊:それは本当にブラックだったんですか。
新田:ブラックでしたね。幸い、自分は希望が通って、事業企画室みたいなところに配属になったんですね。それで経営者のアイディアを実行する部隊ということで、すごくやる気があったんですが、だいたい朝6時くらいから仕事が始まって、夜中の2時くらいまで仕事が続くというような。まさに1年くらいそんな状況が続きました。
川邊:それは4時間しか自由な時間がないと。
新田:通勤時間がないものですから、寝袋で寝るという。
川邊:上下関係はいかがでしたか。
新田:厳しいですね。鉄拳制裁もあるような、ただ自分自身は、労働環境に納得して入っているので「まぁ、こんなものかな」と思っていたんですが、同期で入った人間とかは「ブラックだ」と辞めていくわけですよ。だから同じ環境なのに、満足している人間と辞めていく人間がいると。それを目の当たりにしたわけですね。その後転職をして人事の採用をやったことがあるんですけども。そうすると、世間では大手一流ホワイト企業というブランドある会社にいる方が、なぜか「やりがいがない」と辞めていく状況を見まして。ノルマがないから楽なんだけど、手応えがなくてスキルアップしないから嫌だとか。そうすると、「ブラックだと分かって入って満足する人間」もいれば、「ホワイトだけど合わずに辞めていく人間」もいると。これは不思議なこともあるもんだと。そこに問題意識を感じたのが、原体験ですね。
川邊:いわゆる雇用のミスマッチというか。
新田:どうもミスマッチが起こってしまうのは、就活のタイミングが多いと。そこで私は、そういったミスマッチを無くしたいと思って、就活前の大学1、2年生とか、高校生くらいからそういうキャリアについて教える機会を持ちたいなと。今でこそいっぱいありますけど、当時は無かったものですから。だから自分でやろうと思ったことが独立のきっかけです。
川邊:2回目の起業。
新田:それでいくつかの大学でキャリア講座を受け持っていったんですね。そしたら「ブラック企業にいたけれど楽しかったよ」というのと、「ホワイト企業にいても辞める人がいるよ」という話が意外とウケが良かったので、このテーマはニーズがあるなと。ブラック企業を専門に扱っている人って、当時いなかったものですから。じゃあ自分が専門家と名乗ってしまって情報発信すれば、結構引きがあるんじゃないかなと思いました。それが2008年くらい。
川邊:実際、どうでしたか?
新田:競合もいなかったものですから。結構、雑誌とか新聞、ネット記事などで「ブラック企業問題の専門家として何かコメントしてほしい」というご依頼が続いて、連載記事を持たせてもらえるようになり、さらに著書の発売に続いていったんです。トントン拍子に。
川邊:これは『夢中の深層』の他の人にあったパターンですね。集中しだすと道が拓けていくと。
新田:まさにそんな感じですね。