タイズプレゼンテーション

夢中の深層~インタビュアー川邊健太郎~

第十一回 新田龍さん 誰もが報われる働き方ができる社会を目指して

実録「ブラック企業の正体」

川邊:ブラック企業はどうやって研究するんですか?情報集めるのとか大変だと思いますけども。

新田:自分から情報発信して、「ブラック企業ってこうだよ」とかって記事を出していくと、読んでくれた方がSNS経由で私の名前を検索してくれて。「こういう状況で苦しんでいます」「こういうときどうしたら良いですか」とか相談がくるようになったんです。それで自分も「あ、こんなケースがあるんだ」と勉強していったと。最初は自分の知識の中でアドバイスをしていたんですけども。段々と案件が複雑になってくるようになりまして。そうなると知り合いの弁護士や専門家に私も相談して見解を求めた上でアドバイスをしていって…、ということで今に続いています。

川邊:これまで歴代やってきた中で、印象に残っている「これは一番大変だった」とか、そういうものはありますか?

新田:根が深いと思っている案件を例に挙げさせていただくと、みなさんも名前を知っている大手金融機関があります。昔、ドラマで『半沢直樹』というのがありましたけど。ああいう組織ぐるみ、金融機関ぐるみで悪いことを分かってやっていて、契約者から違法な形で利益を取ろうとしている事件が進んでいるんですね。何があったかというと、預金者にお金持ちの方がいたときに、その人の契約を会社が捏造する。サインとか書類とかを勝手に作って、なぜか勝手に融資の契約をしたことになっていて、知らないうちに口座から引き落とされていたと。会社が支店長ぐるみでやっていたという案件がありまして、裁判になっているんですけども。それを追いかけて報道しようとしています。

川邊:なるほど。ちなみに個人ではなく、他の会社に対して不利益をやるような会社は、社員に対してもかなりブラックであるとか。

新田:いろいろですね。外面は非常に良い会社もあるんですね。人気ランキングでは上位にくるような、みなさんが名前を知っているような会社なんだけど、実は悪いことをやっている部署があったりとか。全社員ではなく、一部の悪意ある人物がやっているとか。会社の中では、そういうことをやるのが常態化していて、内部の人は悪いと気づかないようなこともあったりしますし。

川邊:じゃあ全部が黒いというわけでもないんですね。

新田:そういうことはなかなかないですね。例えば外面が悪い会社。ブラック企業ランキングとかに名前が載るような、労働環境はハードな会社なんだけども、報酬が良いから、意外と従業員としては頑張って働きたいと思っているような会社というのもあります。なので結構、白黒まだらになっているような感じかもしれないですね。

川邊:他にはどういった例が?

新田:結構、大きく報道されて効果があった事例としましては某大手シンクタンクさんの例ですね。役職のある方が、取引先の女性を「取引してやるから」という甘い言葉で誘って、わいせつ行為に及びそうになったと。それに対して、本人が被害を訴えたところ、それが今度は名誉毀損だということで、会社が女性を訴えてきたと。

川邊:女性を大手シンクタンクが訴えた。

新田:口封じのための恫喝訴訟を仕掛けてきたという案件ですね。それは許してはおけないということで、対策をしたところ、無事解決しました。こういう話題って、メディアは取り上げてくれないんですよね。個人も大手企業相手だと泣き寝入りせざるを得ないということで。今回は組織化をはかってうまくいったパターンですね。

川邊:会社が訴訟を取り下げて和解に至る、そのケースだと、結構時間はかかったんですか?それとも新田さんが出てきたら、早めに取り下げるものなんですか?

新田:結局、後者のパターンが、経験上多いですね。やっぱり報道に乗ってしまうことによって、社名が出てしまうかもしれない。弱い被害者を恫喝しようとしているというイメージがついたらマズいということで、やめてしまうパターンも、おかげさまで多いですね。

川邊:他になにか、印象に残っているケースでいうと?

新田:みなさんがよくご存知のブラック企業と言えばこの会社、という某居酒屋チェーン店がありまして。私も当時、叩く側にいた人間だったんですけども。そのあとですね、世間ではあまり報道されなかったんですが、それをきっかけに社内でかなり改善に向けた取り組みをされていたと。ですがそれをなかなか外に発信する機会がなかったということがありました。そういう状況の中、向こうからお声がけを頂きました。これだけ内部が変わったから、自分たちの改革の結果を、客観的に分析をして広報の手伝いをしてくれないかという依頼を受けました。そこで私も、1年半くらい密着で取材させていただいて。

川邊:1年半、内部に入ってみて。本当に会社が変わっていった感じですか?

新田:そうですね。現場のアルバイトレベルの方から、店長、エリアマネージャー、全階層にインタビューしました。やはり内部の方にとっては、世間からはブラックと言われた時期もあったが、自分たちはそんなはずはないと思って頑張っていたというような、ロイヤリティーの高い方も多くて。その方々のお力もあったのかもしれませんが、かなり良くなっていますね。

川邊:変われるポイントって何なんですか?トップの意思なのか。ミドルクラスの変えようとする力なのか。何が一番大きなファクターなんですか?

新田:いろいろなケースを見て共通しているのは、トップが本気で改善しないとマズいというところまで追い込まれて、それを最優先にしてやると決めて、やり続けるかどうかですね。現場から改革したいという意見が出ても、管理職で止まってしまうこともありますし。管理職が頑張っても最終的にトップがうんと言わなかったりというケースもあるので。全体が一枚岩になって「これしかない!」とやり切るかどうか。覚悟が決まっているかどうかが大事だと思います。

川邊:それは一旦、業績が下がってもいいから、よくしようという流れなのか、業績を良くしながらやっていこうという感じなのか。

新田:これは細かな話になってしまいますが、某居酒屋さんの場合は二段階に分かれていまして。先代社長のときは、後者だったんですね。でも、どうしてもそれだと改革に割くパワーが半減してしまうので。いまの社長に代わってから、これまでのことは良くなかった、反省していると真摯に認められて、その上で改革を最優先にやっていくとした結果ですね。ここまでやらないと変わらない。本当に債務超過で倒産しそうになりましたんで。本当にヤバかったですね。2年前。

川邊:でもそこから、社員との関係性も良くして、業績も回復したと。では新田さんとしては、悪いものも取り上げるけれども、良くなっているものも取り上げると。

新田:マズかったものはマズかったけれども、いまはこういう風にやっているから良くなっているとか、このやり方を見習ってくださいね、といった情報発信をしています。

1億円の損害賠償請求受けています。

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