新田:ヤフーさんくらいの規模の企業になると、やっぱり取引先を含めて、文句をつけてくるような輩とか、恫喝訴訟とかいっぱいあると思うんですけど。それがあまりニュースにならないですよね。たぶん知ってる範囲だと、税金の扱いをどうするかとか、2年か3年前にあったくらいで。そういうのは、どう対処されているんですか?法的な対処法とか、スタンスをお聞きしたいなっていうのはありますね。
川邊:やっぱりインターネットで新しいサービスをどんどんやっていって。そうすると、紛争が最初に起きるのもヤフーなんですよね。だからあらゆる揉め事は、ここまでのところはヤフーとか楽天で起きて。基本的には全部受けて立つというスタンスですよね。もちろん悪いことは「ごめんなさい」って謝りますけど。そうじゃないことに関しては、徹底的に戦うというスタンスですね。有名なのだと、検索の削除問題で、とある反社会勢力の方が、それを「消せ」とやってきて。他社の方はそれ妥協しちゃったんですけど、うちは最高裁までやっていますから。基本的には「受けて立つ」というスタンスですね。あらゆることが起きるんで、一個妥協的なことをやっちゃうと、こっちもあっちもって。
新田:あと前向きな話で興味があることとすれば、働き方改革の進展具合ですけど。残業なしで帰れとか、週休3日にするとかいっても、やっぱり働きたいという社員が多いと思うので。どういう形で成果を上げるというやり方とかを啓発されているのかなと。
川邊:物心ともにというか、心のところは、そういうことをやったから質問もできたんですけど、トップが変えようという意識を持って。うちも結構、長時間残業が常態化していたので。それをあるときに「やろう」と上層部で決めて。徹底的にその違反者に言うのは当然としても、そこの所属に「なんで減らせないんだ」ということを徹底的に。なんでやらなきゃいけないのか、単にいままでと同じことをダラダラやっていたんじゃ未来がないから、働き方を変えて、クリエイティビティを上げて、勝っていけるような、新しいことで勝っていけるような会社になろうと思って、やっているんですということを、とにかくひたすら心の面では。自分たちでも心底そう思うし、社員にも言うと。
新田:はい。
川邊:物の方で言うと、特に若い社員は、自分が残業をすることを前提に、キャッシュフローを作っているわけですよ。ですから給与をきちんと、その分を織り込んで出すと。それを悪用すると、例のみなし残業というか、それを超えても働けよってやっちゃうわけですけど。うちの場合は良い意味で逆になっていて。効率よく帰れば、残業しなかった分も出てるから、貰えるわ時間は余るわっていう感じに。それは新田さんが途中で仰ったように、やや誤解を恐れずに言うと、社員の質の問題かなと思っていて。事実効率よくできる能力があるということと、効率よくやって、残業代貰ってかつ自分の時間が増える方が合理的なんだっていう風に、価値判断できるということが、そういうレベルの社員をちゃんと採用し続けるということが重要かなと。
新田:採用の段階から入ってきちゃいますよね。
川邊:そこがあべこべ、価値判断できないと、変わらないですし。変わらない社員がメジャーな会社になっちゃうと、そういう風にしたい社員も萎縮してしなくなる。だから物心ともにそういう風に制度を変えたり、何度も言ったり。その究極が引っ越しだったんですよね。ここがよりそういう、早く帰って効率よくやったり、クリエイティビティ上げてやっていこうぜっていうオフィスに変えたんで。より一層加速するんじゃないかなと思っていますね。
新田:では最初にそういったメッセージを発信されてから、いまに至るまでどのくらいの期間を要しているんですか?
川邊:2年くらいを要しているでしょうね。だけど今年の某広告代理店さんのああいうのとか、他人事じゃないですよね。あのとき決意してやらなかったら、似たようなことが起きなくはなかったんじゃと。本当に意思を持って変えて良かったなと。
新田:今はじゃあ、そういう長時間労働を是とするような管理職の方はあまりいない?
川邊:絶滅したかというと、そういうわけではないですけど。マイノリティにはなりましたよね。マイノリティにしちゃえば、「あの人が変なんだよね」と、こっちの大半の意見が正しいとなるので。そこが、そっちがメジャーだとやっぱり難しいですよね。だから私も、前に比べると効率良く終わらせて早く帰るようにしていますし。この階がコワーキングスペースなんですけど、週1回こういう自由に使えるスペースで働いて、新たな働き方を提唱したりとかしてます。
新田:あとは例えば、広告代理店の案件もそうだと思うんですが、仕事をやりたい社員が多いと。例えば、クライアントが要求してくるからというのもあると思うんですが、「朝までに資料作ってこい」とか、「これやってくれなかったら取引やめる」みたいなことは、クライアントから要求されるからこそ、長期間労働をやらざるを得ない面ってあると思うんですけど。そういうクライアントさんがいらっしゃった場合って、どう対処されているんですか。
川邊:うちは基本的にBtoCのサービスをやっていて、1人のユーザーに強行に言われることはないのと、BtoBの方は必ず代理店さんが挟まっているので、そういうのは代理店さんが受けてくれているという側面はありますよね。だから何かによって強いられて、誰かが帰れないみたいなことは、起きづらい会社ですね。ただその分、どこかが犠牲になっている可能性はあるので。そういうのも含めて、その先の広告主さんに理解をしてもらうのを、こちらも一緒になってやらないとダメなんでしょうね。
新田:まあ向こうがそういうことをやっちゃったら、「あの会社こういうことやってきたらしいぞ」っていうのが広がりかねないですからね。
川邊:だからこの他社に対して強いているのは、実はブラックなんだと。だから最初の定義が重要かなと思っていて。ブラック企業というのは、自分の社員になにかすることだけがブラック企業なんじゃなくて。他の取引先にもそういうことを強いるのが、ブラックなんだよっていうのが重要かなと。
新田:ホワイト企業ランキングに載っている企業も、自社はホワイトですけど、しわ寄せが下請けに行っているパターンは多いですから。ぜんぶそう考えていいのかなと思うと、疑問な部分はありますよね。
川邊:言われない限り、我々も無邪気に「広告主なんだから」と言いかねないので。そこまで含めて、社会認識を作っていかないといけないなと。