川邊:アリはどのような単位で販売しているんですか?
島田:一家族で販売しています。みなさんご存知だと思うんですが、巣の中に女王アリという大きなアリがいます。
家族の中でいう母親なんですね。女王アリが卵を産んで、子育てをして、産まれてきたのが働きアリになります。働きアリはたくさんいる、小さなアリなんですけど。女王アリから産まれた娘たちなんですよ。女王アリはまず始めに、オスと交尾をしています。女王アリって、産まれたときには羽が生えているんですよ。
その女王アリと交尾ができるのが同じように羽が生えているオスの羽アリなんです。
川邊:交尾をする用のオスは、羽が生えている。ヒエラルキーがハッキリしていますね。
島田:アリは「結婚飛行」という行動をするんです。種類ごとによって季節が違うんですけど。例えばこの中にいる「クロオオアリ」という、日本で身近なアリなんですけど。このアリは5月中旬頃に結婚飛行をします。
5月中旬の晴れた蒸し暑い日に、同じ地域のクロオオアリたちの巣穴から、大量の羽アリが出てくるんですよ。一つの巣から何百という数が出てきて、オスと女王アリが空中で出会って、交尾をします。
川邊:すごいですね。
島田:それで空中で交尾をすると、女王アリはすぐに地面に降りて、降りた瞬間に羽を自ら切り取ります。もう使わなくなった羽を、逆方向に曲げるとポロっと。落ちた女王アリは、しばらく地面をウロウロします。それで環境の良さそうな土を見つけると、一匹で大体2〜3cmくらいの、そんなに深くない巣穴を掘るんですよ。その中に入ると、入り口に土で蓋をして、中に閉じこもります。それで卵を産むんですよ。
川邊:有精卵ということですね。
島田:有精卵を産みます。大体1週間くらいかけて、10〜20くらいの卵を産むんですよ。その卵を一生懸命、女王アリが世話をして。大体10~14日くらいすると、そこから幼虫が産まれてきます。アリの幼虫というのは、手も脚もなくて、自分ではほとんど動けないような、米粒のような形をしているんです。そうすると今度は、女王アリは体内に蓄えている栄養を、口移しで幼虫にあげるんですよ。毎日エサをあげると、徐々に幼虫も大きくなっていきます。その幼虫が大体2週間くらい経つと、今度は口から糸を吐いて、繭を作ります。
川邊:カイコみたいな。
島田:それで袋状の繭を作って、その中で脱皮をしてサナギになります。サナギの段階になると、色は白いですけどアリの形をしています。それからさらに2週間くらい経った頃、つまり、女王アリが巣穴を掘ってから1ヶ月半くらいかかると、繭の中から働きアリが誕生するんですよ。
川邊:そんな女王アリとその子どもたちを一家族として販売していると。
島田:交尾を終えた女王アリを販売しているのと、すでに家族になっているものを販売することがあります。
川邊:さっきの話だと、女王アリが自分で世話をしたのが働きアリになって。それ以降、女王は産んでいく?
島田:最初の働きアリが産まれる1ヶ月半は、女王アリはなにも食べずに、お腹に蓄えた栄養だけを幼虫に与えて、子育てをします。1ヶ月半が経って、働きアリが産まれると、働きアリは巣の外に出てエサを集めに行って、どんどん女王アリがエサを食べ始めるんですよ。そこからはずっと産んでいるだけの暮らしをしています。働きアリが産まれてからは、女王アリは子育てもしなくなります。働きアリがエサを取りに行って、巣の中に戻って幼虫にエサをあげるんですよ。
川邊:不思議ですね。いままでアリを見てきましたけど、そういうふうにして増えていったんですね。ちなみに、蟻マシーンは、どんな人が買うんですか?
島田:虫好きの方も勿論いるんですけど、そうじゃない方の方が多くて。アリ以外の虫は飼ってないけど、アリだけに興味があるという方もすごく多いんですよ。一人暮らしをしていて、ペットが飼えないようなマンションに住んでいるような方が、アリを飼っていたりとか。完全にペットとして飼っている方が多いです。
川邊:年齢層でいうと、どんな人が多いんですか?
島田:小学生くらいの子どもたちは、夏休みに自由研究で飼ったり。20代から30代、それ以上の方になると、ペットとして何年も大事に飼っているという人も多いです。
川邊:一匹の女王アリはどれくらいの寿命で、どれくらい群れが大きくなるんですか?
島田:女王アリはすごく長生きで。クロオオアリの女王アリだと20年くらい生きたりとか。犬や猫くらい長く付き合うことができます。クロオオアリですと、いまウチで5年目の家族がいるんですけど。働きアリが2000匹くらいいます。
これは蟻マシーンの小さなタイプなんですけど、ウチではもう一個、大きなタイプも販売していまして。その2000匹のコロニーになると、大きな巣を4台チューブで連結しています。