川邊:ちなみに女王アリって、一回飛んで交尾して産み始めて、有精卵の状態が一生続くんですか?
島田:そうなんですよ。結婚飛行の日しかオスと交尾しないんですけど。そのときに交尾してもらった精子を、体内に生かしたまま貯めておくんですよ。それを20年間とか受精させながら、卵を産むことができるんですよ。
川邊:一回の受精で20年間、有精卵にし続けられる。それって昆虫一般的ですか?
島田:いや、アリだけですね。もう一つ面白いのはアリとハチは同じ仕組みなんです。実はアリってハチから進化した生き物で、有精卵はメスになって、無精卵がオスになります。普通、生き物って無精卵はかえらないんですけど。アリとハチの場合は、無精卵がオスになるんですよ。女王アリが無精卵を産んで、オスを結婚飛行の時期に合わせて産むこともあれば、あとは働きアリが産んでいることもあるんですよ。
川邊:働きアリは産めるんですか?
島田:働きアリってメスなんです。実は卵巣がお腹の中にあるんですよ。女王アリでなくても持っている。ただ女王アリがいるときは、女王のフェロモンによって産卵を抑えられているんですよ。
川邊:よくできていますね。
島田:なので、例えばこの蟻マシーンだと、卵を産むのは女王アリだけなんですけど、なんらかの原因で、女王アリが死んでしまった場合、この巣から働きアリが産まれてくることが無くなってしまうんですね。そうなると働きアリが無精卵を産みだします。無精卵をたくさん産んで、その中から羽の生えたオスが産まれてくるんですよ。このオスが結婚飛行の時期に飛び立って、別の巣の女王アリと交尾ができれば、この巣の遺伝子が次に残せるんですよ。
川邊:女王アリが死んでしまうと、DNAを遺すために働きアリが無精卵を産んで、それがオスになってどこかで交尾をして…執念ですね。
島田:あとは5年、10年経つと、巣がかなり広範囲に広がるんですね。そうすると、女王からかなり遠くまで巣がありますので、女王アリのフェロモンが届きにくい場所が出てくるんですよ。その場合、遠くにいる働きアリが、無精卵を産むこともあります。なので、女王アリがいても働きアリが卵を産むことはありますね。
川邊:ハチっていうものが、この世に出てきたのはいつくらいで、アリが出てきたのはいつくらいなんですか?
島田:ハチもおそらく、恐竜時代からいるような生き物なので、そこからアリが進化したんですよね。かなり昔からこういった社会性を築いています。
川邊:じゃあ人間よりも先。元祖社会性動物ですね。
島田:さっきのハキリアリは農業をするアリとして有名なんです。葉っぱを切り取ってきて、巣に持ってきて、キノコを栽培してるんですよ。キノコの菌糸の栄養分として、葉っぱを持ってきているんです。あとは巣の中でアブラムシの世話をして、アブラムシが出す蜜を収穫したり、つまり牧畜ですよね。人間が牛から牛乳を収穫するのと同じようなことを、アリは人間が誕生する遥か昔からやってるんですよ。
川邊:じゃあ、世が世なら、サルが進化した我々じゃなくて、アリが進化したアリサピエンスみたいなのが、いたかもしれない。
島田:本当にアリは、家族で暮らす社会性を持っていることで、人間と被ることをたくさんやっているんですよ。
川邊:なにか最後に、今後の抱負みたいなものを聞かせて頂けますか?
島田:とにかく面白いので、たくさんの人にアリの魅力を伝わるような活動が続けられたらなと思っています。たくさんの人とアリを観察して、例えば身近なクロオオアリでも、見ていて「なにしてるんだろう」という行動はいまだにあるんですね。そういうことを、僕だけでは分からないことも、他の人が見れば分かることもあると思うんですよ。たくさんの人が飼えば飼うほど、アリのことがもっと詳しく分かるんじゃないかなと。
川邊:鑑賞して、いろんな情報を共有して、もっとアリのことを詳しくなりたいと。
島田:僕は自分が見ていて楽しいものを、いろんな人に見てもらいたいという気持ちが一番強いので。僕が興奮したものを、いろんな人に見てもらいたいです。
川邊:今日は、島田さんが夢中になっていることが十二分に分かりました。私もアリを飼いたいと思います。アリ通販専門店「AntRoom」の島田拓さんにお越しいただきました。ありがとうございました。
島田:ありがとうございました。